◎ 年金分割と公正証書
平成19年4月1日より、離婚時に厚生年金の分割が可能となるような仕組みが設けられました。この離婚分割の基本的な仕組みは、次の通りです。
@ 離婚当事者の婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を、離婚時に限って、当事者間で分割することが認
められます。
A 平成19年4月1日以降に成立した離婚が対象となります。 ただし、施行日以前の厚生年金の保険料
納付記録も分割の対象となります。
B 分割割合は、5割が上限となります。
C 離婚当事者間の協議で分割割合について合意のうえ、社会保険事務所に厚生年金分割の請求を行います。
D 合意がまとまらない場合には、離婚当事者の一方の求めにより、家庭裁判所が分割割合を定めることができ
ます。
離婚の年金分割について離婚当事者が合意した場合、年金事務所に標準報酬改定の請求書を提出することになりますが、その場合、次のいずれかの書類を添付することとされています。
1. 離婚当事者間で合意できた場合
当事者が標準報酬改定請求をすること及び請求すべき按分割合について合意している旨が記載された公正証書の謄本若しくは抄録謄本又は公証人の認証を受けた私署証書。(第1号改定者(分割する側の人)及び第2号改定者(分割を受ける側の人)の氏名及び生年月日、基礎年金番号が記載されていること)
2.家庭裁判所が関与した場合(次の何れかを添付します。)
@ 請求すべき按分割合を定めた確定した審判の謄本又は抄本
A 請求すべき按分割合を定めた調停についての調停調書の謄本又は抄本
B 請求すべき按分割合を定めた確定した判決の謄本又は抄本
C 請求すべき按分割合を定めた和解についての和解調書の謄本又は抄本
夫婦の協議で年金分割の按分割合が決まった場合でも、それを必ず公正証書又は私署証書にする必要があります。単なる口約束や離婚協議書の合意だけでは、標準報酬改定請求はできませんので、注意が必要です。
平成20年4月1日から、公正証書だけではなく、両者の合意文書を提出することにより、年金分割請求することができるようになりました。
按分の割合は、通常は年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を提出して「年金分割のための情報通知書」の提供を受けて、そこに記載されている「按分割合の範囲○%を超え50%以下」となっているところから、その割合を当事者の合意のうえで決定することになります。
平成20年4月1日より、婚姻期間中に第3号被保険者期間を有する妻からの一方的な申し出により、夫の標準報酬を分割できるようになりました。 分割割合は、自動的に2分の1とされます。 但し、平成20年4月1日(施行日)前の期間は、含まれません。
詳細については、年金事務所の窓口にてお尋ねください。 そのときに、改定後の標準報酬額や加入期間、受給できる年金額等も合わせて、確認しておきますと、離婚後のライフプラン設計に役立ちます。 平成19年4月より、離婚時の年金分割制度がスタートしましたが、最近、統計では離婚件数の大幅な増加はなかったようです。 年金分割に関する情報は、書物でもインターネット上でも色々な情報提供が行われていますが、年金分割を実際行った場合、年金受給額はどのようになるのか試算したものは、私が接した情報の範囲ではありませんでした。
◎ 熟年離婚の年金額試算
今回、「夫の定年を機に、熟年離婚をした場合の年金受給額はどうなるか?」ということで、勝手にモデルケースを設定して、概算で試算してみました。
1.前提条件
@ 夫 昭和23年生まれ、60歳、会社員、厚生年金に38年加入
A 妻 昭和26年生まれ、57歳、専業主婦、結婚前に厚生年金に5年加入、
結婚後は国民年金に30年加入
B 婚姻期間 30年
C 夫の厚生年金受給額 : 10万円/月
D 妻の厚生年金受給額 : 1万円/月
E 夫 78歳で死亡
F 妻 85歳で死亡
2.離婚しないで、寿命をまっとうした場合
@ 夫の年齢別受給額
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▼60歳 |
▼64歳 |
▼65歳 |
▼68歳 |
▼78歳(死亡) |
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厚生年金(報酬比例部分) |
厚生年金(報酬比例部分) |
厚生年金 |
厚生年金 |
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厚生年金(定額部分) |
基礎年金 |
基礎年金 |
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加給年金 |
加給年金 |
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比例:120万円×4年 |
比例:120万円×1年 |
厚生:120万円×3年 |
厚生:120万円×10年 |
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定額:72万円×1年 |
基礎:72万円×3年 |
基礎:72万円×10年 |
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加給:40万円×1年 |
加給:40万円×3年 |
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小計:480万円 |
小計:232万円 |
小計:696万円 |
小計:1,920万円 |
累計:3,328万円 |
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月額:10万円 |
月額:19.3万円 |
月額:19.3万円 |
月額:16万円 |
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A 妻の年齢別受給額
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▼60歳 |
▼63歳 |
▼65歳 |
▼75歳 |
▼85歳(死亡) |
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厚生年金(報酬比例部分) |
厚生年金(報酬比例部分) |
厚生年金 |
厚生年金 |
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厚生年金(定額部分) |
基礎年金 |
遺族厚生年金 |
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振替加算 |
基礎年金 |
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振替加算 |
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比例:12万円×3年 |
比例:12万円×2年 |
厚生:12万円×10年 |
厚生:12万円×10年 |
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定額:9万円×2年 |
基礎:72万円×10年 |
遺族:78万円×10年 |
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振替:7.6万円×10年 |
基礎:72万円×10年 |
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振替:7.6万円×10年 |
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小計:36万円 |
小計:42万円 |
小計:916万円 |
小計:1,696万円 |
累計:2,690万円 |
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月額:1万円 |
月額:1.8万円 |
月額:7.6万円 |
月額:14.1万円 |
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3.夫の定年を機に熟年離婚した場合
・分割対象期間 婚姻期間の30年間
・分割対象金額 120万円×30年/38年=94万円
(実際は、婚姻期間の標準報酬額を分割します。)
・分割割合 50 : 50
・夫の分割後厚生年金額 73万円/年(47万円+26万円(婚姻前))
・妻の分割後厚生年金額 59万円/年(47万円+12万円(婚姻前))
@ 夫の年齢別受給額
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▼60歳 |
▼64歳 |
▼65歳 |
▼68歳 |
▼78歳(死亡) |
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厚生年金(報酬比例部分) |
厚生年金(報酬比例部分) |
厚生年金 |
厚生年金 |
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厚生年金(定額部分) |
基礎年金 |
基礎年金 |
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加給年金:なし |
加給年金:なし |
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比例:73万円×4年 |
比例:73万円×1年 |
厚生:73万円×3年 |
厚生:73万円×10年 |
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定額:72万円×1年 |
基礎:72万円×3年 |
基礎:72万円×10年 |
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小計:292万円 |
小計:145万円 |
小計:435万円 |
小計:1,450万円 |
累計:2,322万円 |
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月額:6.1万円 |
月額:12.1万円 |
月額:12.1万円 |
月額:12.1万円 |
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月額:10万円 |
月額:19.3万円 |
月額:19.3万円 |
月額:16万円 |
<−分割前月額 |
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月額:▲3.9万円 |
月額:▲7.2万円 |
月額:▲7.2万円 |
月額:▲3.9万円 |
増減 |
A 妻の年齢別受給額
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▼60歳 |
▼63歳 |
▼65歳 |
▼75歳 |
▼85歳(死亡) |
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厚生年金(報酬比例部分) |
厚生年金(報酬比例部分) |
厚生年金 |
厚生年金 |
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厚生年金(定額部分) |
基礎年金 |
遺族厚生年金:なし |
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振替加算:なし |
基礎年金 |
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振替加算:なし |
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比例:59万円×3年 |
比例:59万円×2年 |
厚生:59万円×10年 |
厚生:59万円×10年 |
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定額:9万円×2年 |
基礎:72万円×10年 |
基礎:72万円×10年 |
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小計:177万円 |
小計:136万円 |
小計:1,310万円 |
小計:1,310万円 |
累計:2,933万円 |
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月額:4.9万円 |
月額:5.7万円 |
月額:10.9万円 |
月額:10.9万円 |
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月額:1万円 |
月額:1.8万円 |
月額:7.6万円 |
月額:14.1万円 |
<−分割前月額 |
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月額:3.9万円 |
月額:3.9万円 |
月額:3.3万円 |
月額:▲3.2万円 |
増減 |
4.年金受給累計額
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離婚しない場合 |
離婚した場合 |
増 減 |
年額増減 |
月額増減 |
受給期間 |
夫 |
3,328万円 |
2,322万円 |
▲1,006万円 |
▲56万円/年 |
▲4.6万円/月 |
18年 |
妻 |
2,690万円 |
2,933万円 |
243万円 |
9.7万円/年 |
0.8万円/月 |
25年 |
合 計 |
6,018万円 |
5,255万円 |
▲763万円 |
▲30.5万円/年 |
▲2.5万円/月 |
25年 |
差異要因
@ 夫の報酬比例部分 : ▲846万円=47万円×18年
A 夫の加給年金 : ▲160万円=40万円×4年
B 妻の報酬比例部分 : 1,175万円=47万円×25年
C 妻の振替加算 : ▲152万円=7.6万円×20年
D 妻の遺族厚生年金 : ▲780万円=78万円×10年
5.考 察
@ 年金の制度設計が夫婦を単位としているため、離婚すると優遇されている加給年金、振替加算、遺族厚生
年金などの受給権利を失い、年金受給額が減少する。
A 夫の年金額の減少が大きく、経済的に厳しい老後を過ごすおそれがある。
B 熟年離婚は、国の年金財政に貢献するケースが多くなるのではないかと推測される。
各個人毎の正しい年金額を知りたいときは、最寄の年金事務所にお問合せください。
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